「私の座敷へ通されたある若い女が、「どうも自分の周囲(まわり)がきちんと片づかないで困りますが、どうしたら宜しいものでしょう」と聞いた。 この女はある親戚の宅に寄寓しているので、そこが手狭な上に、子供などが蒼蠅いのだろうと思った私の答は、すこぶる簡単であった。「どこかさっぱりした家を探して下宿でもしたら好いでしょう」「いえ部屋の事ではないので、頭の中がきちんと片づかないで困るのです」 私は私の誤解を意識すると同時に、女の意味がまた解らなくなった。それでもう少し進んだ説明を彼女に求めた。「外からは何でも頭の中に入って来ますが、それが心の中心と折合がつかないのです」「あなたのいう心の中心とはいったいどんなものですか」「どんなものと云って、真直な直線なのです」 私はこの女の数学に熱心な事を知っていた。けれども心の中心が直線だという意味は無論私に通じなかった。その上中心とははたして何を意味するのか、それもほとんど不可解であった。女はこう云った。「物には何でも中心がございましょう」」https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/760_14940.html (『硝子戸の中』夏目漱石)
なんだかすごい。色んな人が漱石を訪ねていたらしい。漱石はその相手もいちいちしていたみたい。その内の一つ。結局ちゃんとしたアドバイスはできなかった漱石はどういう気持ちでこれを書いたんだろうかと思う。
ジャグリングに興味ある人が集まって、わちゃわちゃできたらいいなって思って。